朝の学舎
田んぼが育むものたち [伊那毎日新聞]
虫眼で見てみよう〜伊那市美篶小学校5年・小川文昭さん〜
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(2007/7/27掲載)
子どもたちの夏休みが始まった。休みといえば、以前は「田植え休み」「稲刈り休み」と呼ばれる休みが春と秋にあり、その名のとおり、田植えや稲刈りを手伝うために用意されていた。現在では、農業の機械化などで子どもが手伝う場面が減り、田んぼに入って草取りをする機会もほとんどなくなっている。
今回の朝の学舎では、伊那市美篶の米農家小川文昭さんが、美篶小学校5年生の子どもたちと、田んぼで野外教室を開いた。
小川さんは現在、農薬や化学肥料を使わない米づくりに取り組んでいる。また、米づくりを通して、田んぼにはたくさんの生きものが米とともに育まれていることを感じ、同じように、このちいさな小宇宙のような田んぼの世界にひきつけられた仲間とともに、2002年、「ひと・むし・たんぼの会」を結成、一年を通して、田んぼに集まるさまざまな虫たちの観察を続けている。
伊那市美篶は、南アルプスを源流とする三峰川の恵みを受けた水田が広がる地域で、昔からおいしい米ができることで知られ、三峰川の水が利用されていることから、「川下り米」呼ばれて親しまれてきた。
この日野外教室にやってきた美篶小学校の子どもたちは、そうした水田が広がる地域に生まれ育っているが、米づくり農家はわずかで、ほとんどの子どもたちが、裸足で田んぼに入った経験がない。そこで、この日は、小川さんの提案で、裸足になって田んぼに入ることになった。
裸足で田んぼに入ってみよう
虫眼で見てみよう
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田んぼは、土がしっかりと水を含み、子どもたちにとってはおそらく「意外な」やわらかさ。裸足になった片足を田んぼの中に踏み入れると、ゆっくりと泥の中に沈み込み、もう片方の足を上げた途端にバランスを崩して転びそうになる。
子どもたちは、はじめて足の裏がつかんだ田んぼの泥の感触に、最初は「気持ち悪い…」「転びそう…」と、立っているのがやっと。しかし、足の裏の感触、体のバランスにもすぐに慣れて、今度は田んぼの中に見えるヤゴやオタマジャクシ、ミズカマキリなどに夢中になっていった。
この日観察できた生きものは、アカトンボのヤゴ、コオイムシ、ミズカマキリの幼虫、ニホンアマガエルのオタマジャクシ、コガムシ、ニホンアマガエル、ゲンゴロウ類の幼虫、ミズアブの幼虫、ヒメアメンボウ、カノコガ、ショウリョウバッタの幼虫、モートンイトトンボやイトトンボの仲間たちなど。子どもたちは、採集した虫たちを水槽に入れて、その数と種類の多さに驚いていた様子だった。
トンボ舞う田んぼで
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「田んぼで育っているのはお米だけじゃない。他にもたくさんの生きものがいて、一緒に育っている。その存在を知ると、いままで見ていた田んぼの風景が全く変わって見えてくる」と小川さん。そうした眼を持つことを、ひと・むし・たんぼの会では「虫眼を持つ」と言う。
この日、子どもたちは裸足で泥を感じて田んぼの中を歩きながら、確かに「虫眼を持つ」ことの楽しさを感じたようだ。さらに、小川さんから子どもたちに、大きなメッセージが伝えられた。
「みんなが毎日食べているご飯。そのお茶碗一杯分は、米粒3000〜4000粒。それは、稲の株で言うと3〜4株。そして、その広さ(稲株3〜4株分)には、ヤゴ一匹が生きています。ヤゴはやがてトンボになる。ということは、お茶碗一杯のご飯の上には、トンボ一匹が舞っているということ。きょうから、ご飯を食べる時には、ここにはトンボ一匹が生きてるんだ、と感じながら食べてほしい」(小川さん)。
虫眼を体感した子どもたちは、この小川さんのメッセージを、受け止めた。
小川さんの田んぼでは、7月初旬からアカトンボの羽化が始まり、稲の葉先にたくさんの生まれたてのアカトンボがしがみついている。しばらくすると、羽が乾いて、一匹、また一匹と舞い上がる。すると、その羽化の瞬間を知っていたかのように、田んぼの上空にはツバメたちが集まり、アカトンボをエサにするために待ち受けている光景が見られる。
田んぼの水の中では、豊かな珪藻類が育まれ、それをミジンコが食べ、そしてヤゴが食べ、羽化したアカトンボがツバメに食べられる。一枚の田んぼの中で、こうした食物連鎖が確実にある。
米を食べている私たちも、その連鎖に確実に関わり続けている。
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