朝の学舎
自然とじょうずにつきあう日本の家 [伊那毎日新聞]
障子はり体験を通して〜伊那市高遠小学校
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(2008/2/22掲載)
日本の伝統的な家屋は、土壁、木、障子(紙)茅葺き屋根など、自然素材で囲まれていた。土も木も紙も、それぞれ呼吸し、湿気を調節する。そうした自然の呼吸とともに、家があり、その中で四季折々の暮らしがあった。中でも障子は、破れるとその場所だけを補修したり、年末には家族総出での障子の張り替え作業など、その家族の暮らしぶりに密着した存在だ。
日本の伝統様式を残しながらも、最近では洋風な住宅様式が主流となり、障子や畳を使った和室が一室もない住宅も増えている。
今回の朝の学舎は、高遠小学校4年生が、障子貼り体験を通して、自然とじょうずにつきあってきた日本の家屋について学ぶ。
障子貼りの舞台は、伊那市高遠町の『進徳館』。ここは、日本の近代教育の基礎を築いた伊沢修二をはじめ、優れた人材を輩出した高遠藩の藩校として知られる貴重な建物で、1860年に開校された。茅葺き屋根、障子、濡れ縁など、当時のままの姿で保存されている貴重な建物だ。今回は、特別に許可を受けて、高遠小学校の子どもたちが進徳館の障子を貼りかえる体験をした。
外の気配を感じるおもしろさ
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今回の先生は、茅葺き屋根の伝承に力を注ぎ、日本伝統の住宅やまちなみの研究を続ける吉沢政己さんと、高遠町で生まれ育ち、地域の子どもたちに、わら細工やお囃子などを教えている本田利行さん、松尾英人さん。
この日は、障子の貼り替え作業を前に、『進徳館』の歴史や日本家屋の特徴について、吉沢さんから話を聞いた。
『進徳館』は、当時8歳から25歳までの藩士の子弟が学んでいた場所で、当時の記録によれば、午前8時から午後4時まで、儒学や数学などを修めた。年齢によって学ぶ部屋が異なり、また、教師が控える部屋など、それぞれ畳と障子に囲まれた部屋が並んでいる。
高遠小学校の子どもたちは、現代のような暖房器具もない当時の学習の様子を聞きながら、かつて自分たちと近い年齢の子どもたちが学んでいた畳の部屋に座り、障子から射し込む日差しを感じた。
「障子は、和紙を通して、外の気配を想像することができるとても楽しいもの。紙は自然に呼吸をして湿度の調節をしてくれるし、光によってできる影を楽しむこともできる。また、たとえば穴があいてしまったら、そこだけ補修する楽しみもありますね」(吉沢さん)。
照明をつけなくても、外の自然光がやさしく注がれる部屋の中で、子どもたちは障子と改めて向き合った。そして、3人1組になって障子を外し、近くの高遠閣まで運び、ぞうきんでていねいに障子紙を濡らしながら、まずは古い障子紙をはがす作業を体験した。
ちいさなコツを積み重ねて
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本田さん、松尾さんがこの日のために用意したノリは、昔からよく家庭での障子貼りでは使われていた小麦粉を溶かしたもの。このノリを使うと、紙を剥がしやすく、障子のホネにノリが残りにくく、また、安全性も高い。
子どもたちは、ハケにノリを少量つけ、少しずつノリを置いていくようにしながら、息を合わせて紙をのせ、シワにならないように貼ってゆく作業に取り組んだ。
ノリの量が多すぎたり、少なすぎたり、また、紙が斜めになってしまったり、シワになったり―。ちょっとしたコツで器用に貼ってゆく本田さんや松尾さんに手ほどきを受けながら、30分ほどで、計18本の障子の貼り替え作業を終えることができた。
子どもたちは「難しかったけれど、貼り替えてみると気持ちがいい」「家でもやってみたい」と、話し、友達と力を合わせて終えた作業に満足している様子だった。
貼り替えた障子は、ノリが乾いてから霧吹きで水をかけ、紙にできたシワを伸ばして完成。この日は、『進徳館』にある障子54本のうち18本が、子どもたちによって真新しくなった。
『障子』
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障の「障」という字には、遮る、隔てる、塞ぐ、などの意味があり、薄い和紙を貼った障子は直射日光を適度に遮り、外側のちょうど半分ほどの光を室内に取り入れるとされている。木と紙でできた障子は、自然と調和した日本の住宅によく溶け込み、白い和紙と細い木が作り出す幾何学的な美しさも魅力があり、最近では海外でも人気が高い。
障子の特性としては、ほかに、夜になると光を反射させて室内の照明効果を上げたり、和紙と紙による自然な吸湿効果などがある。
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