朝の学舎
大地の恵みにありがとう [伊那毎日新聞]
われらかかし隊とかかし協力隊の収穫祭
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(2007/12/21掲載)
今年もあとわずか。この一年、どんな実りがあっただろうか。春から土を耕し、季節や日々の天候の折々に、作物の成長を感じながらの暮らしが当たり前だった頃には、秋の実りは、大地の恵みに感謝する実感として受け止めていただろう。しかし、暮らしが少しずつ土から離れ、大地の恵みを実感する機会は少なくなってきたようだ。
宮田村公民館が主催して、春から展開してきた「われら、かかし隊」は、そんな大地からの恵みを親子で実感しよう、昔の人たちの暮らしを実感してみよう―と始まった。地元で農業を営む先達や、昔ながらの手作りを大切にしている先達の皆さんを「かかし協力隊」としてお願いして、親子で畑や田んぼの作業を体験し、季節と作物の成長を見守り、この秋、実りを迎えた。
今回の朝の学舎は、この「われら、かかし隊」の収穫の様子を中心に、親子で受け止めたさまざまな実りを追った。
稲の匂いに囲まれて
足踏み脱穀機に挑戦
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10月28日、秋の青空が広がったこの日は、2週間前に稲を刈り、ハザにかけて天日干ししていた稲を、昔ながらの足踏み脱穀機を使って、脱穀。そして、脱穀したもみを、トウミと呼ばれる道具にかけ、ごみを取り除く作業も体験した。
足踏み脱穀機は、足もとにあるペダルを踏むと、上部にある丸い部分が回転し、その突起に稲束が触れると、稲の茎からもみだけが取れるという仕組みの昔ながらの道具だ。動力は、足で踏む人間の力だけ。足の動かし方で、回転の速さを調節しながら、稲束を入れるタイミングや角度を少しずつ変えてゆく。もみがうまく離れてゆくかどうか、回転する道具の中の様子も、しっかりと観察することも大切な仕事だ。
この日は、就学前の小さな隊員も、親子で協力しながら体験。全員がはじめての挑戦だったため、足と手を同時に使うのは難しく、かかし協力隊の大先輩が足の部分を担当し、協力しながら脱穀を進めた。
そして、脱穀に続いては、トウミの登場。この道具も、動力は人間の力だけ。上部に開いた大きな穴にもみを入れ、手で取っ手を回すと、中に入れられたもみが風によって舞い、軽いごみだけが分別されていくというものだ。
作業を進めるうちに、隊員たちのまわりは真新しいもみのやわらかい匂いでいっぱいになり、隊員たちは道具の周囲にこぼれたもみを手ですくって、そのやさしい手触りを楽しんでいた。
同じ日、隣にあるそば畑では、そばを収穫。機械を使わず、腰の前にぶらさげた袋に、手でそばの実をひとつずつ収穫するという方法だ。茶色に実ったそばの実は、畑の中では目立たないため、最初は「どこにあるの?」と母親に聞く姿も。しかし、そばの実の形や色を覚えてくると、「なんだかさわると気持ちいいね」と話しながら、ちいさな実をうれしそうに集めていた。
すべて手作り
みんなで感じる収穫の喜びの日
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11月23日。この日は、昔から「新嘗祭」が開かれ、その年に収穫された米を献上する日としても知られている。かかし隊のこの日は、待ちに待った収穫祭の日。収穫した米を使った五平もち、同じく収穫したさつまいもを使ったスイートポテトが収穫祭の献立となった。
昔、「こばし」と呼ばれる二本の棒を使って脱穀がおこなわれていた頃、その作業が終わると、手伝ってくれた人たちを招いて五平もちをふるまった―という農村の慣習があったという。五平もちは、昔から、収穫に感謝する食べ物として大切にされてきたのだった。
この日、五平もちに塗ったくるみだれも、実は、隊員たちが近くの林から拾い集めたもの。また、五平もちを焼く炭も、サワラの木でできた串も、かかし協力隊による手作りのものだ。
お米、くるみ、さつまいも、炭、串。すべてかかし隊とかかし協力隊による手作り。そして、それらがやってきた場所が、すべてわかるものたち。隊員たちは、一年の実りを味わいながら、それらを運んでくれた大地の恵みを、しっかりとかみしめている様子だった。
実りを「供える」
収穫祭の意味
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日本では、神様は山にいて、春になると山を降りて里にやってきて、田の神になって作物を守り、実りをもたらした―といわれている。そして、晩秋になると田の神は山へ帰り、山の神になるという。
そこで、昔から、春には田の神となる神様をお迎えする祭りをして、秋には、神がもたらしてくれた収穫物をお供えして、神に実りを感謝する祭りをしていたのだった。そして、感謝の気持ちをこめてお供えをしたあと、神様と一緒にその実りをいただいた。
この日は、かかし隊の隊長、宮田公民館の酒井さんが子どもたちにこうした収穫の日の謂れを話し、また来年の恵みを祈った。
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