朝の学舎
【朝の学舎】森の木漏れ日 ≪森の空を見上げてみよう≫ [伊那毎日新聞]
伊那市西箕輪小学校とち組きり組・内田健一さん(森づくり実践者)
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(2007/6/26掲載)
伊那市の西箕輪小学校は、周囲を豊かな学校林に囲まれている。すべての学級に木の名前がつけられ、休み時間になると学校林の中に設けられたアスレチック施設に子どもたちが集まってくるなど、日常的に森や木を近くで感じることができる環境だ。
前回の朝の学舎で、4年生のとち組・きり組の子どもたちは、通学路の途中にある有賀建具店を訪ね、自然の木のすばらしさを感じる授業を体験した。実際にカンナで木を削ったり、有賀さんが製作した64種類もの樹種を使った箪笥を見たり、五感で木を感じた子どもたち。その後、学校林にある樹木に興味を持ち、木の葉っぱや肌を観察して、次第に森への興味をふくらませていった。
そこで、今回、森づくりの実践者・内田健一さんを迎え、森の授業を受けた。
木を伐ることはかわいそう?
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内田健一さんに聞く
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日本全体では、おそらく森林の半分ぐらいはかなり悪い状態でしょう。日本は国土の3分の2が森林。そのうちの40%は人工林で、そのほとんどが戦後植えられた人工林です。大半が手が入れられていない、間伐がおこなわれていない状態です。木が細すぎて、雪や風に弱く、山が崩れる可能性もあります。一方で、雑木林、広葉樹の林も、手入れされていないので、暗い状態になっていることが多く、これも深刻な状況です。
なぜ、手入れが遅れているのか、その原因としては、人的な問題と技術の問題があります。山で働く人が高齢化して、だんだん減って、補充が追いついていない。山で働きたいと希望する人は増えてはいますが、なかなかお金にならず、継続しにくい。技術の問題で言えば、明治時代以降、ドイツから林業の技術を輸入してきましたが、それを日本流にアレンジできていない側面があります。江戸時代の技術と少し違っていて、今の日本に合わない面もあるんです。ドイツでは、自然環境の面も、木材生産の面も、うまくやっていますが、日本ではまだ解決が遅れています。
◆「森の未来」
森というのは、本来美しいものであるし、美しくなければいけないものだと思います。原生林は、ものすごく長い時間をかけて淘汰されて、美しいものがほとんどです。その他は、ほとんど人間がかかわってきたわけですから、人間がかかわっていかなければ、美しい森にはなり得ません。
もっと人間が森と上手にかかわって、美しい森を作るべきだと思います。それと同時に、森は木材を生産する場でもあるし、心を癒す場でもあるわけです。伊那谷に住んでいる人は、森の近くに住んでいるわけですから、森に対して責任を持つべきだと思います。
◆「長い時間をかけて」
森林というのは、非常に長期間育って、やっと一人前になる性質を持っていますから、もともと人間が一世代ぐらい手を入れたぐらいでは大人になれません。人間が何世代にもわたって継続的に手を入れなければ、森にはならない。だとすれば、人間の側が、森を育てるような長い、余裕が持てる生活、もっと自分たちが好きな生活スタイルを繰り返すことが幸せ―という考え方に変えていくことだと思います。そうした中で、森を育てるような長期的な視野に立って、自分たちの生き方そのものを考える必要があるように思います。
あまりものごとに変化はないけれど、継続して自分たちの環境を守り、継続してある程度の豊かな資源(木材や食料)を得られることのほうが幸せなんだ、というふうに―。
◆「利用しながら森を育てる」
世界的に見れば、森林は、毎年、乱伐や環境の変化で砂漠化したりして、面積を減らしています。でも、日本は、降水量に恵まれていますから、森林をほったらかしにしたり、切りっぱなしにしておいても、にわかに砂漠になってしまうことは考えにくいです。けれども、日本の森林も、ちゃんと人間がかかわってやらなければ、豊かな状態、美しい状態になることはできないわけです。
日本人は、もっと日本の環境をよくすることを考えなければいけないでしょう。手入れされていない森林があれば、間伐しなければいけないでしょうし、広葉樹の森の場合でも、植林せず、生えてきたものをうまく育てれば美しい森に育てることも可能ですから、そういう方法も検討していく必要があります。
日本人は、木材をかなりたくさん使いますが、その8割は輸入しています。日本にこれだけ森林資源が豊富にあるにもかかわらず、2割しか国内のものを使っていない。一方で森林が間伐されずに荒れているというのは、世界から見ても納得できる状況ではないでしょう。もっと人間がかかわって、大切に利用しながら、森を育てていくことが大切だと思います。
【内田健一さん】信州大学農学部林学科卒。信州大学大学院修士課程修了。伐採業者、森林組合の作業員を経て信州伊那谷で親方として独立。2001年、岐阜県立森林文化アカデミー講師、同助教授を経て2005年退職。現在はフリーの立場で森林、林業問題の実践、研究執筆活動をおこなう。著書に『森づくりの明暗』
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