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朝の学舎

生きている水 珪藻からのメッセージ [伊那毎日新聞]

世界一小さなハッチョウトンボを支える日本一大きなクチビルケイソウ


生きている水 珪藻からのメッセージ [伊那毎日新聞]
ハッチョウトンボ(オス・夏に撮影)
(2007/5/2掲載)

 第1回目の『朝の学舎』に登場するのは、珪藻研究者の飯島敏雄さん(諏訪市在住)と伊那市新山小学校の子どもたち。水の中に生きる小さな珪藻を出発点とした食物連鎖や、珪藻が生きている水の環境、さらに水源から河口まで水を介してつながってゆくさまざまな自然の営みについて、飯島さんが子どもたちに語った。

水の中の神秘


水の中の神秘
ハッチョウトンボの湿地に生息する日本一大きなクチビルケイソウ

 伊那市新山には、世界一小さなトンボとして知られるハッチョウトンボが生息していることが確認されている。生息しているのは、山を崩して造成地にした場所にできた湿地。今では、日本有数の生息地として、専門家らから注目を集め、新山地区では、地域ぐるみでハッチョウトンボの生息地の保護に取り組んでいる。

 40年余にわたって珪藻類や水環境についての研究を重ねている飯島さんは、この湿地に興味を持ち、数年前から珪藻や水棲昆虫などの調査、観察を続けていた。その調査の果、珪藻の中でも、日本一の大きさが特徴のクチビルケイソウという珪藻が、この湿地に生息していることがわかっている。世界一小さなハッチョウトンボが生息する水に住む日本一大きなクチビルケイソウ。この自然の神秘とも言える生命のつながりを、今年3月、新山小学校を訪れた飯島さんは、子どもたちに伝えた。

光合成と食物連鎖


光合成と食物連鎖
顕微鏡で採取してきた湿地の水を観察。飯島さんの説明を聞きながら、わずかな水の中にさまざまな珪藻がいることを発見していた

 夏になると成虫となって草の間を舞うハッチョウトンボを見たことはあっても、湿地の水の中を顕微鏡で覗いたのは、子どもたちにとってこの日が初めての経験。最初は、なかなか珪藻類を発見することができずに苦労したものの、飯島さんに、クチビルケイソウとハッチョウトンボの不思議なつながりについて説明を聞くと、教室のあちこちで「あった!」「いた!」と歓声があがった。

 続いて飯島さんは、珪藻を出発点とする食物連鎖について説明した。光合成して自ら栄養分や酸素を作り出す珪藻は、1ミリの10分の1、100分の1という大きさのちいさなもの。その珪藻をミジンコが食べ、ミジンコをハッチョウトンボの幼虫であるヤゴが食べて、ハッチョウトンボの生命につながっている。

 自分たちが採取してきた水の中で発見したクチビルケイソウが、ハッチョウトンボの生命につながる食物連鎖の出発点であることを知った子どもたちは、さらに、その連鎖が動物である自分自身にまでつながっていることを知り、「珪藻が住めるように水を汚さないようにしたい」と話していた。

水に恵まれているありがたさを

飯島敏雄さん(談)


水に恵まれているありがたさを
ハッチョウトンボが生息する湿地(伊那市新山)で、新山小学校のこどもたちが水を採取して観察

 「郷土を愛するとか、日本を愛する、と言いますが、その心は結局自分の身のまわりがどうなっているかを知ることが第一だと思います。新山小学校の子どもたちが、自分のまわりにこんな財産があることを知る―そのことが、将来大きくなって、新山を愛し、自分の子どもを育てていく上で大事なことだと思います。

 湿地は、大規模なものであれば、例えば世界遺産などとして保護されますが、目立たない小さな湿地であっても、そこに大切な生物がいるので、やたらに湿地に踏み込¥行んだり、水を汲み出して乾燥させてしまわないようにしていくことも重要です。

 日本ほど、どこに行っても天然の水がある国はありません。したがって、うっかりすると水を汚してしまいがちですが、日本は水に恵まれているというありがたさを、もっと感じていくことがこれから大切だと思います。水は人間だけのものではないので、それは一つの人間の義務とも言えるでしょう」(飯島敏雄さん)

珪藻研究者

飯島敏雄さん


珪藻研究者
10年余前から毎月1回、諏訪湖で珪藻の観察を続けている飯島さん

 木曽谷に生まれた飯島さんは、幼いころから川で遊ぶことが何より大好きな少年だったという。高校時代、偶然手にした科学雑誌に掲載されていた記事に関心を持ち、その記事を書いていた先生のもとでどうしても勉強したい―と、高校を転校。片道2時間以上かかる高校で、水や水棲昆虫、植物などの観察、研究に没頭しはじめた。大学も自然科学の分野に進み、さらに研究。卒業後は教師となり、今度は子どもたちを連れて水や自然を観察して歩いた。橋の下で野宿して子どもたちと水の観察をしたこともあるという。

 その後、当時、珪藻研究の第一人者として知られていた小林弘さんとの出会いもあり、珪藻研究の道へとさらに深く進んでいくことになった。

 現在は、日本珪藻学会、国際珪藻学会に名を連ね、日本国内だけでなく、世界各地で珪藻を採取、観察、また、世界の研究者と交流を深めている。

 また、自宅近くの諏訪湖では、10年余前から毎月一回、定期的に観察を続け、水温やPH、珪藻の種類を記録し続けている。その結果、諏訪湖特有の珪藻であるニセタルケイソウ(学名・オーラコセイラ・アンビグア)が、天竜川の中流から下流域で生息していることや、富栄養化しやすい湖沼特有の珪藻で諏訪湖に住むトゲガサケイソウも、伊那市や下伊那地域の天竜川に生息していることを確認。諏訪湖の影響が、珪藻という指標で見ても、中流、下流まで及んでいることが実証されている。

 飯島さんは「科学的な指標で見れば、水質が良くなった、とも言われる諏訪湖でも、珪藻から見ると、まだまだきれいになったとは言えない。これからも珪藻という視点で水質を見続けたい」と話す。

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